さよなら、ホーカー。

The Economist に “How much longer can they satay?” という、シンガポールのホーカーについての記事。急激な経済成長と都市化が進む「何もかもが高い国」シンガポールにおいて、ノスタルジックな雰囲気のなかでチープイートにありつけるホーカーは、そこで生活する人々にとって、あるいはそこを訪れる旅行者にとって、さらには出張者にとってさえ愛すべき存在だ。

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記事中に興味深い数字がいくつか。

Roughly half of the 6,258 government-managed stalls pay rents as low as S$160 ($120.80) a month. The other half, however, must pay market rates, which can exceed S$4,100 a month. These stallholders must compete with each other on price. People will not pay S$8 for a bowl of fishball noodles that they can get for S$3 two stalls away.

シンガポール政府が管轄している屋台 (stalls) の数は6,258。上記引用部とは別のところで「シンガポールにおけるホーカーセンターの数は100強」という記述があるので、1つのホーカーあたりの屋台数は平均して60前後ということか。そして、あの狭い屋台の家賃がなんとS$4,100 (約380,000円)。単身赴任サラリーマンの自宅家賃が30万円を下らないような国なので、そんなもんだと言われればそんなものなのかもしれないけれど、さすがシンガポール

ただ、大昔に路上で営業していた屋台に関しては、政府主導で衛生管理が整ったホーカーセンターに移転させる際のインセンティブとして、低い家賃を設定したため、実際は「第一世代」と呼ばれる半数以上の店舗はS$160 (約15,000円) しか家賃を払っていないらしい。これら「第一世代」の屋台の世代交代にあわせてホーカーの家賃が高騰、提供される料理の値段も上がっていき、いまある形でホーカーが生き残ることは難しいだろう、というのがこの記事の論旨。 

既にいくつかの屋台では、セントラルキッチンで調理済みの料理を複数の屋台に配達するといったやり方を始めていたり、より高い単価が取れるようにローカル料理をやめてパスタのような料理に業態を変更したり、本格的な店舗オープン前のテストマーケティングとしてホーカーの屋台を利用したり、といった、従来のホーカーでは考えられなかったような取り組みが始まっているらしい。資本主義の中で治外法権のように存在していたホーカーも、取り囲む資本の論理からは逃れられず、その中に組み込まれていく、ということか。 冒頭の写真はマックスウェル・フードセンター (Maxwell Food Centre) の有名な粥屋。S$3 (約270円) で食べられなくなる日がはそう遠くないのかもしれない。