『海賊とよばれた男』(山崎貴):消化不良感

出光興産とその創業者である出光佐三をモデルにした国岡商店と国岡鐡造の物語。 

戦前、門司の機械油商時代から戦後、1953年の日章丸事件(映画内では「日承丸」)に至るまで、次から次へとさまざまな困難に直面し、それを乗り越えていく姿は、主人公、国岡鐡造のモデルとなった出光佐三の起業家/経営者としての胆力と懐の深さを見るものに想起させる――。

と、言いたいところだが、それぞれが重みに欠ける描き方をされたエピソードを次から次へと見せられて、申し訳ないけれどもはっきりいって消化不良気味。たとえば、鐡造と国岡商店をめぐる以下のようなエピソードがテンポよくひたすら繰り返された結果、残念ながらそこで描かれる困難さや、それを乗り越えていく強さが(言葉を選ばずにいえば)陳腐化してしまっているように感じた。実際にはどのエピソードも鐡造や国岡商店にとって重要なはずなのに、それが伝わってこなかったのは残念だった。

  • 創業期のつらい時期に木田章太郎が鐡造にお金を出してあげる話
  • ユキとの出会いと別れ
  • 後の幹部になる人材の入社
  • 石油配給統制会社との戦い/南方基地での石油取扱業者を勝ち取る
  • 石油を扱えない時期のラジオ修理事業
  • 満鉄への乗り込み営業
  • 戦争と長谷部の死
  • 石油タンクの底に残る石油をさらう業務
  • 日承丸事件

そしてなによりも、タイトルにもなっている「海賊」に関してだが、その由来となる門司時代のエピソードも、その後の鐡造の人生における扱いも、どちらもあまりに淡白すぎじゃなかろうか。人がなぜ鐡造を「海賊」と呼ぶようになったのか(実際映画の中で実際に鐡造が「海賊」と呼ばれるシーンは意外と少ない)、そして「海賊と呼ばれた」鐡造の、その後の人生における「海賊」っぷり、「海賊」としての生きざまなど、もう少しメリハリをつけて描けたのではないか(原作は未読なので、原作におけるトーンは分からないが)。

岡田准一の老けメイクはとても良くできていたと思う。

 

海賊とよばれた男

監督:山崎貴 出演:岡田准一 吉岡秀隆 染谷将太 鈴木亮平 野間口徹 ピエール瀧 綾瀬はるか 2016 日本 145分

 

海賊とよばれた男(上) (講談社文庫)

海賊とよばれた男(上) (講談社文庫)

 
海賊とよばれた男(下) (講談社文庫)

海賊とよばれた男(下) (講談社文庫)